日本の少子化対策の失敗

今回はこちらの本の内容に基づいて、日本の少子化対策の失敗について述べていきます。

日本の少子化対策の失敗

日本は少子高齢化が急速に進んでいる国であり、これまで世界各国から日本の少子化の状況が注目を浴びてきました。

「女性1人あたり一生の間に産む平均子ども数」である合計特殊出生率が2.07人を下回ると、人口が減少していきますが、日本の場合、平成以降、合計特殊出生率が1.6以下の状態が30年以上続いています。

2021年の日本の合計特殊出生率は、1.3でした。

少子化対策に失敗した日本に対して、フランスやスウェーデンは政府が少子化対策に力を入れたおかげで、合計特殊出生率が20-30年前は1.5付近まで落ちていたのが、近年は1.7-19くらいまで上昇しています。

ドイツやスペインの合計特殊出生率は日本と大きく変わりませんが、移民受け入れによって大きな人口減少を避けることができています。

東アジア諸国の合計特殊出生率は、実は日本を下回る国が多く、韓国、香港、シンガポールなどは合計特殊出生率が1.2を下回っています。

日本の場合、1990年ごろから将来の少子化が予想され、それによっておこる労働力不足、就労世代の社会保障費の増大などが問題として挙げられました。

しかし、政府が少子化対策に着手するまでそこから10年ほどかかりました。

2005年には合計特殊出生率が1.26まで落ち込みましたが、その後はやや持ち直して平均1.4前後で推移しています。

この本では、日本の政策担当者が少子化対策で見過ごしてきた大きな要因として、「未婚化」と「若者の経済力の格差拡大」を挙げています。

日本では、結婚した女性は2015年時点でも平均で1.94人子どもを産んでおり、若者が全員結婚すれば合計特殊出生率は2近くまで上がるはずでした。

しかし、現実は結婚しない若者が増えており、政府の政策担当者は、「晩婚化」が進んでいると考えて、結婚しない・できない若者が増えて「未婚化」が進んでいる状況を正しく把握できていなかったようです。

また、「収入の低い男性は結婚相手に選ばれにくい」という身も蓋もない事実があることに関して、公ではあまり議論されてこなかった(差別的な発言ととらえられるようです)こともあり、経済面での補助政策が十分行われてきませんでした。

2015年の既婚女性調査では、子どもを希望数まで持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が全体の5割以上を占め、圧倒的1位になっています。

日本は欧米で少子化対策に成功したスウェーデンやフランスの政策をモデルにしようと試みてきましたが、これまでその対策は功を奏していません。

理由として、日本と欧米諸国の文化的な差異があり、家族や結婚、子育てに対する価値観の違いがあると言われています。

日本では、「リスク回避傾向」、「世間体重視」、「子供に辛い思いをさせたくないという感情」があることで、結婚へのインセンティブが働きにくいとこの本の著者は述べています。

「リスク回避傾向」は結婚、子育てにまつわる「生活上のリスク」を回避したがること、「世間体重視」は結婚相手の職業や年齢、年収を重視し世間体に照らしてふさわしい相手が見つかるまで結婚しないこと、「子供に辛い思いをさせたくないという感情」はよい条件で子育てをしたいのでそれが満たされないと考えられる場合は結婚自体を回避することであると解説しています。

また、欧米では成人後は親元を離れることが原則であり、家から出た後は結婚や同棲をした方が経済的なメリットが大きいのに対して、日本は成人後も親と同居する割合が多く、その点も未婚者が多くなる要因としています。

現代の日本では若者が恋愛は面倒、恋愛はリスクである、コスパが悪いと考える人も増えてきているようで、2014年の内閣府の調査でも、恋人がほしくないと回答している人は4割もいます。

欧米と違って、積極的に恋愛を求める人の割合が少ないことから、結婚や出産の社会的、経済的条件を整えただけでは、少子化対策の効果は上がらないと考えられます。

以前は若者は自然に結婚するだろうという考えが政策担当者らにあったようですが、その考えも今母通用しなくなってきており、出会いを増やす結婚支援が必要とされています。

子どもを持つと、基本的に親は子どもを高等教育まで学ばせてあげたいと考えるので、そのための多額の資金が必要になります。

かつて日本では多くの世帯がいわゆる中流家庭に属し、平均的な賃金でも子どもを大学まで進学させることが可能でした。

しかし、近年、日本の経済的な凋落が著しく、平均的な賃金で子どもを何人も高校、大学に入れることが容易ではなくなってきています。

たとえ結婚して子どもを1人持ち、2人目が欲しいとなっても、経済的な理由で諦める家庭も多いと考えられます。

経済が発展し、物質的に豊かになることで、どこの国でも少子化が進むことが明らかになっています。

少子化を無理やりにでも止めて人口を増やそうとするのは無理な話であり、人口が増えすぎることで人々の暮らしがかえって窮屈で苦しいものになることを考えれば、適正な数の人口に減っていくのは長い目で見るとメリットもあるかも知れません。

しかし、日本の場合は、今後少子高齢化によって、社会保障制度を維持するために、就労世代に大変な負担がかかることが予想されます。

少子化自体は仕方のないものとしても、少子高齢化の波を少しでも止めて、将来の就労世代の負担を減らすことができるように働きかけていくことは非常に重要なことです。

結婚を望まない人が一定数いるのは良いとしても、結婚を望む人に対しては、出会いの場を持てるように、政府や自治体がより支援を行っていく必要があるでしょう。

経済的な事情で結婚に踏み切れない、子どもを希望数まで持てないといったところも、政府や自治体の支援が求められます。

子どもを多く持っても経済的に困窮しないよう、現在は育休や保育所に関する支援が進められていますが、それらに加えて高等教育の無償化あるいは補助金の拠出も実現する必要があると思います。

以前、私は小倉少子化担当大臣がAbemaTVで出演した回を視聴したのですが、その際に、子ども1人産むごとに1000万円程度補助金を出すという案に対して、大臣はプライマリバランスを悪化させるので政府として採用しないとのことでした。

しかし、少子高齢化の勢いが世界の中でも突出している日本において、なんらかの大胆な策を講じなければ、将来国がじり貧になることは目に見えています。

今はまだ良くても、このまま有効な手段を打てなければ、20年後、30年後にそのつけを払うのは私たちやその時代の若者たちになります。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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