今回は陰謀論についての記事です。
陰謀論は個人的に興味があったので、こちらの本を参考に陰謀論について学んでみました。
過去から現在に至るまで、人間社会にはさまざまな陰謀論が飛び交っています。
古くは西洋の魔女狩りがあり、魔女が存在するという陰謀論にとらわれた人々が女性たちに残虐な行いをしたことが記録に残っています。
現代の有名な陰謀論には、「気候変動(温暖化)とCO2排出は関係はなく、一部の人々の利益のためにでっち上げられたものだ」、「アポロは実際には月面に行っておらず、月面着陸の映像は作りものだ」といったものがあります。
新型コロナウイルスやワクチンに関する陰謀論も数多く出ており、中にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツが新型コロナとワクチンで人口を減らす企みに関わっているなどとといった陰謀論も出ているようです。
ロシアのウクライナ侵攻に関しても、ロシアが非難されるべきところを、ウクライナが実は悪者であり、映像で流れているウクライナの被害も捏造であると主張する人々もいるようです。
陰謀論というのは、一見すると本当かも知れないと思うようなものから、あまりにも荒唐無稽なものまで様々なものが存在します。
「陰謀論」という言葉は、実際に存在する「陰謀」とは分けて考える必要があります。
この本では、「陰謀」というのは、「権力をもつ少数の集団が自分たちの利益のために公共の利益に反して秘密裏に行動すること」を指すとしています。
「陰謀」というのは実際にこれまでいくつか明るみになっており、アメリカではウォーターゲート事件やタスキーギ実験(なにも知らない黒人に梅毒を注射した実験)などがあります。
一方、「陰謀論」は、なんらかの出来事に対して「陰謀」が存在するのではないかと考える人たちの説であり、専門の情報機関が「陰謀」は真実であると認めるまでは、「陰謀」に対する疑いはすべて「陰謀論」になります。
そのため、ここで述べている「陰謀論」は、でたらめなものもあれば、「陰謀」が実際に存在するものも含んでいます。
私たちは基本的に、どんな情報であっても、情報を正しく伝えるために専門家によって構成された機関による説明を信じるべきで、専門家の意見と真っ向から対立する説や、専門家から事実であるとまだお墨付きをもらっていない説を完全に信じることには慎重にならなければいけません。
中には、時間が経ってから専門家から事実であると認められる説もありますが、そうしたものも含めて、まだ明らかになっていない「陰謀」を説くものはすべて「陰謀論」に含まれます。
陰謀論の中には、証拠が見つからないので証明しようがないものがありますが、怪しげな陰謀論を信じる人は、それは陰謀を企む人々が証拠を隠すことに長けているからだと言います。
科学的な思考に基づけば、ある主張の誤りを示す証拠がない場合、その主張を正しいと証明する証拠も存在しません。
そのため、あやしげな陰謀論を説く人と対話する際には、「どういった証拠を示せば、あなたの主張が真実でないと納得してくれますか?」と聞くことが、建設的な対話を進めるのに有効とされています。
もしも、そこで「そんなものはない」と返答された場合は、論理的な対話を進めることが不可能であるため、対話を打ち切る必要があります。
陰謀論が説かれることは決して有害なことばかりではなく、時に公共の利益となることがあります。
たとえば、現実に陰謀が存在する場合に、そうした陰謀を明るみにすることで、悪事を暴き不正を防ぐことができます。
仮に陰謀論の内容が間違っていたとしても、それがきっかけで専門家らが調査に乗り出して多くの情報が公開され、専門家ら自身にも良い気づきが得られることがあります。
現在、9.11テロについて膨大な情報が公開されているのは、9.11テロに対する陰謀論と関係があり、陰謀論を説く人々が政府に詳細な情報公開を求めたからと言われています。
こうした働きは、透明性を高め、未来の陰謀を防ぐことにつながります。
陰謀論に基づく人の信念というのは時に集団や社会を動かすことがあり、その力というのは決して軽視することはできません。
2015年にアメリカのテキサス州では、当時のオバマ大統領がテキサス州を軍事侵攻するという陰謀論が広まり、州知事が州兵に動員をかけたという事例がありました。
Obama's Invasion of Texas: When Partisanship Becomes an Extreme Sport (newsweek.com)
アメリカでは実に40パーセントもの人々が人為的な温暖化を認めないために、議会は温暖化対処のための法案が通せない状態が続いています。(ほとんどの専門家が温暖化は人為的なものであると認めているにも関わらずです)
多数の死傷者を出した1995年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件の犯人は、政府が市民から銃を取り上げるという陰謀論にとらわれて事件を起こしたことが分かっています。
陰謀論を信じる人の心理的傾向についてはいくつか研究が行われています。
たとえば、人は進化の過程で他者の不正行為を疑いたいという欲求を備えるようになり、それが一部の人たちには過剰に備わっており、証拠がほとんどなくてもほかの人たちが不正行為を行っているのではないかと考えることがあります。
また、何かが起こったら、だれかが意図的にそれを起こしたのではないか、と考える癖をもつ人々もいて、それは意図性バイアスと呼ばれています。
ほかにも、実は情報をほとんど持っていないのに、その少ない情報で物事を判断しようとする人々もいて、そうした人々が陰謀論を信じやすいのではないかとも言われています。
ただ、これらの研究は現実社会の政治や報道の影響を加味していないので、陰謀論を信じる人の実態を必ずしも正確に表しているとは言えないようです。
人は、真実よりも、自分がすでに信じている内容と矛盾しない情報源を選ぼうとする傾向があり、自分の世界観と反する情報に直面すると、多くの人は理由をつけてその情報を否定しようとします。
陰謀論を信じる人は、競合関係にある集団を非難する陰謀論を信じる傾向にあり、自分が属する集団を非難する陰謀論は信じない傾向もあります。
アメリカでは近年、共和党と民主党の両方が、選挙戦で相手方が陰謀を企んでいる、選挙に勝てたのは相手方の陰謀があったからだ、という陰謀論を主張しています。
たとえば以前、トランプ元大統領が選挙に勝てたのはロシアと共謀して選挙を不正操作をしていたからだという陰謀論がありましたが、2年にわたる調査の後に2019年に出されたムラー報告書によってその陰謀論は否定されました。
しかし、一部の人々はそれでもトランプ・ロシア陰謀論を取り下げることはなかったとのことです。
一方、トランプ元大統領の方は、選挙の時から様々な陰謀論(政治のエリートがアメリカの利益を外国に売り渡してきた、というものをはじめ、シリア難民はISISの工作員である、オバマ元大統領はイスラム系テロリストと通じているなどといったもの)を説いて、支持者を集めました。
こうした陰謀論政治というのは、真実を歪めて、一部の弱い立場にある人々を攻撃対象にしてしまうという点で危険であると言えます。
これまで書いてきたように、陰謀論は真実のものもあれば、でたらめのものもあるため扱いには慎重になる必要があります。
陰謀論をすべて価値のないものとして完全に抑圧してしまうと、本当に陰謀が企まれたときに陰謀への調査を妨害してしまうことにつながります。
一方で、でたらめな陰謀論を容易に信じて拡散してしまうと、時に大きな問題を生むこともあります。
私たちにできることとは、ふだんから他の人の考えや意見に耳を傾ける姿勢を持ち、自分自身の考え方の癖や偏見をなるべく自覚しておくことです。
専門家の意見を尊重し、物事を論理的にとらえ考える習慣を身につけることで、怪しげな陰謀論に陥る可能性を減らすことができると思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。