今回は薬の価格について、医療費と絡めながら解説を行います。
現在、医薬品市場は年々拡大を続けており、2019年の世界の医薬品の売上高は約131兆円でした。
製薬会社は自社開発した新薬(先発医薬品)の特許を持つのでそれら新薬の独占販売を行うことができます。
しかし、年月が経って特許が切れると、他の企業も同じ成分でその薬を製造・販売できるようになります。
他の企業が作る先発医薬品と同じ成分をもつ薬を後発医薬品(ジェネリック)と呼びます。
日本は少子高齢化と経済低成長に伴い、年々増加する医療費に少しでも歯止めをかけるため、薬の公定価格の引き下げと後発医薬品の推奨を進めています。
薬の公定価格とは医療保険が適用になる薬の価格のことで国が定めています。
定期的に改定が行われ、医療費抑制のために、ほとんどの場合改定の度に公定価格は引き下げられてきました。
後発医薬品は新薬の半分以下の価格になるので、後発医薬品の割合が多ければ、全体の医療費の抑制につながります。
現在、日本では医療費の自己負担は年齢や収入に応じて1割~3割負担となっていますが、医療費が高額になった場合に自己負担に上限を設ける高額医療費制度、そのほか障害をもつ人や難病・感染症などに対して医療費のすべてや一部を補助する公費医療制度などがあり、こうした各種の負担軽減策もあって、2018年度のすべての国民医療費に占める自己負担額の割合は11.8%程度でした。
残りの88.2%は保険料と公費(税金など)によってまかなわれています。
2018年度の国民医療費は約43兆円でしたので、約38兆円が保険料や税金です。
医療費の伸びを見ると、2001年度には国民医療費は約30兆円だったのが2018年度には約43兆円と、約1.4倍まで増えています。
一方、医療費に含まれる薬剤費については、2001年度には約6.1兆円だったのが、2018年度には9.5兆円と約1.6倍まで増えています。
医療費が増えれば、それだけ国民の保険料の支払いが増えるので、少しでも医療費の増大を抑制していかなければなりません。
薬の公定価格の引き下げと後発医薬品の推奨はそのために行われています。
近年、新薬の開発に莫大な費用がかかることから、がんや難病に対する新薬の中でも非常に高額な薬が発売されていることが話題になっています。
たとえば、2014年に発売されたオブジーボは体重60㎏の患者さんに対して使用すると1人あたり年間3500万円もかかるもので、2015年に非小細胞がんというがんに対する治療適用となった際、最大で年間1500億円の売り上げが予測されました。
これはつまり1500億円売れれば、そのうちの8-9割を保険料や税金でまかなわなければいけないということになります。
そのため2017年には薬の価格を半分に引き下げる異例の改定が行われました。
また、日本薬剤師会が75歳以上の在宅患者を対象に調査したところ、飲み残しで無駄になっている薬剤費は年間約475億円と試算されました。
ほかにも高齢になって複数の診療科を受診し多くの種類の薬が処方されるようになると、中には薬が重複していたり不要な薬が出されるなどしているケースもあって、それらを含めるとさらに無駄な薬剤費が発生していると考えられます。
日本の大手製薬会社とくに先発医薬品メーカーは、薬の公定価格の引き下げと後発医薬品の推奨を受けて企業として生き残るためにいくつかの策を打ち出しています。
たとえば特許切れの薬に関しては、オーソライズド・ジェネリック(AG薬)という先発医薬品と同じ製法で安価に販売する薬がありますが、これは自社で製造販売することがあります。
また、海外での販売比率を増やしたり、M&Aを通して企業の開発規模を広げるなどしています。
今後、少子高齢化と経済の低成長で国全体の医療費はさらに増大していきます。
医療費の増大に伴い保険料の負担額が増加すると、国民の生活もじわじわと厳しくなることが予想されます。
国は少しでも医療費を抑えるために薬の公定価格の引き下げと後発医薬品の推奨を続けていくと思われますが、今後、医療側も患者側も無駄な医療や医薬品の使用はなるべく控えるよう誘導する取り組み・施策も必要になってくるかも知れません。
以上、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
参考文献:図解即戦力 医薬品業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書