今回は「白米と玄米」と言うテーマの記事になります。
白米は私たち日本人の主食であり、今では当たり前のように食べていますが、歴史を振り返るとすべての日本人が白米を毎日食べられるようになった時代は長くはありません。
昔は米を精製して白米にするのは大変な労力が必要だったので、白米を食べる機会は限られていたようです。
白米と玄米の違いについて、またそれぞれの栄養に関する研究などを紹介していきたいと思います。
目次
白米と玄米の構造の違い
こちらのイラストにあるように、米は籾殻(もみがら)、糠(ぬか)、胚乳、胚芽というような構造に分かれています。
現代で私たちが口にする玄米はここから籾殻だけを除いた米で、白米は籾殻と糠と胚芽を除いた胚乳だけの米です。
日本では昔は臼(うす)の中で竪杵(たてきね)を使って籾殻を落としていたのですが、籾殻だけでなく糠もある程度取れてしまうので、庶民が食べていた昔の米は現代で言う玄米よりも糠が少なかったようです。
現代の玄米が胚乳、胚芽、糠を合わせて100%備えているとしたら、昔の人が食べていた米は糠が少し落ちて全体の95%程度でした。これは今で言う5分(ぶ)づき米くらいの精製度になります。
精白技術が発達した17世紀後半になって初めて、籾殻だけを除いた今で言う玄米を作ることが可能になりました。
そのため、昔の日本人が玄米を食べていたというのは正確な話ではなく、17世紀後半以前は基本的には五分づきくらいの米を食べていたということになります。
白米と玄米の栄養価の違い
玄米と白米の栄養素の違いを見てみます。
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
こちらを見ると、玄米→五分つき米→白米となるに従って、たんぱく質や炭水化物は変わらないものの、食物繊維やビタミン、ミネラル類が少なくなっているのがわかると思います。
食品成分表によると白米は
食物繊維は玄米の約5分の1
鉄分は玄米の6分の1
ビタミンB1は玄米の8分の1
ビタミンB6は玄米の約10分の1
しか含んでいないことが分かります。
白米と脚気
白米は奈良時代から食べられるようになりましたが、白米を食べることができたのは貴族のような限られた人々のみでした。
理由としては精製技術がまだ発達していなかったので、白米を作るのに大変な労力が必要であったからです。
江戸時代になると精製技術が発達して、庶民も白米を食べることができるようになりました。
しかし、白米ばかり食べることで脚気という神経に障害が出る病気が流行します。
脚気はビタミンB1不足で発生するのですが、白米は玄米よりもビタミンB1の含有量が少ないため、白米を食べることでビタミンB1が不足して脚気になってしまうのです。
現代では、肉類などのおかずが充実しているので白米を主食としても脚気になることはありませんが、昔はおかずが少なく、白米ばかり食べることで脚気になる人が多かったのです。
エビデンスの紹介
こちらの論文によると、総計4635人の被験者を対象とした58の研究を分析したところ、食物繊維の多い全粒穀物(玄米、全粒粉など)をより多くとることが、体重減少、LDL(悪玉)コレステロール低下、血圧の低下につながっていたと報告されています。
Effects of the brown rice diet on visceral obesity and endothelial function: the BRAVO study | British Journal of Nutrition | Cambridge Core Effects of the brown rice diet on visceral obesity and endoth www.cambridge.org
こちらの論文では日本で行われた研究が報告されています。
メタボリックシンドロームの有無にかかわらず、男性ボランティアに玄米または白米を摂取してもらい、食後の血糖値とインスリンを測定したところ、玄米の方が白米よりも血糖値やインスリンの増加の程度は低かったと報告されました。
また、メタボリックシンドロームの27人の男性ボランティアを対象にした研究では、玄米を8週間摂取した後は、体重に連動する(体重が増えると数値が悪化する)LDLコレステロールや肝機能などの様々なパラメータの値が減少しましたが、白米を摂取するようになると最初の値に戻ってしまったと報告されています。
以上より、玄米は白米よりも血糖値やLDLコレステロールなどのメタボリックシンドロームに関わる数値の上昇を抑える効果がありそうです。
より詳しいエビデンスを知りたい方はこちらのRik先生のブログも参考にしてみてください。
全粒穀物と精製穀物の健康効果まとめ【玄米 vs 白米】 - Riklog
玄米の食べ方
玄米の方が白米よりも栄養素も高く健康に良さそうなので玄米を食べたいと思われる方もいるでしょう。
実際、玄米は白米よりも栄養価が高いですが、白米よりも食べにくく消化もしにくいという欠点があります。
これまで多くの日本人が白米の方が美味しいと思ったからこそ、現代の日本人の主食は白米が主流になったのです。
ですが、玄米はよく噛んで食べることでしっかり消化できますし、たくさん噛むことで唾液で玄米が消化されて甘みも出てきます。
玄米ではどうしても食べにくいという場合は、玄米と白米を混ぜて食べる、あるいは5分づき米、胚芽米を食べるという選択肢もあります。
私はよく五分づき米を注文して食べています。
無理なく食べ続けられるよう、自分に合った食べ方で玄米を試してもらえたらと思います。
玄米にまつわるネット上の噂
玄米はヒ素が多く含まれている、フィチン酸やアブシジン酸があるので良くない、といった情報がネット上で散見されます。
玄米や白米に含まれているヒ素に関しては農林水産省が調査を行っています。
食品安全委員会は、日本人が食品を通じて摂取するヒ素に関して、「日本において、食品を通じて摂取したヒ素による明らかな健康影響は認められておらず、ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていない」、また、「特定の食品に偏らずバランスの良い食生活を心がけることが重要」としています。
食品に含まれるヒ素の実態調査:農林水産省 (maff.go.jp)
このようにコメにはほかの食品よりもヒ素が多く含まれているものの、明らかな健康障害は報告されていないとあります。
玄米にはフィチン酸が含まれていてそれがミネラルなどの吸収を阻害すると言われていましたが、現在ではその知見は否定的です。
以下、論文からの引用、翻訳です。(一部省略あり)
フィチン酸は、ミネラル、タンパク質、酵素、でんぷんと不溶性の複合体を形成する性質がある。
この特性は、特に栄養摂取量が不十分な人、ミネラルや微量元素が不足している人において、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウムの吸収を阻害する可能性がある。
それにもかかわらず、いくつかの研究では、フィチン酸は、バランスの取れた食事を摂っている被験者のミネラルのバイオアベイラビリティに大きな影響を与えないことが示唆されている。
腸内の金属吸収の阻害は、ミネラルや微量元素の結合においてフィチン酸と競合する有機酸、アスコルビン酸、錯化剤、食品発酵製品などの多くの食品化合物によって打ち消すことができる。
したがって、バランスの良い食事では、フィチン酸のミネラル結合における阻害作用は低く、栄養状態の良い集団において、食事から取るフィチン酸がミネラルの吸収に悪影響を及ぼす可能性があるという証拠はほとんどない。
Phytic Acid: From Antinutritional to Multiple Protection Factor of Organic Systems - Silva - 2016 - Journal of Food Science - Wiley Online Library
以上より、バランスの良い食事をとっていれば玄米のフィチン酸によるミネラル不足が起こることはないと考えられます。
アブシジン酸ですが、ネットでアブシジン酸が有害であるというソースとなったこちらの論文を読みますと、ヒトの顆粒球を使った実験で非常に高濃度のアブシジン酸が存在した場合に、細胞を傷害する活性酸素が発生するという研究結果をまとめたもので、食事によって摂取したアブシジン酸によって活性酸素が発生したという内容ではありません。
Frontiers | Abscisic Acid: A Novel Nutraceutical for Glycemic Control | Nutrition (frontiersin.org)
アブシジン酸は野菜や果物にも多く含まれており、血糖コントロールに良い影響があることが分かっています 。そのため、玄米食によるアブシジン酸の影響を心配する必要はありません
以上より、ネットで出回っている玄米のヒ素、フィチン酸、アブシジン酸の話は気にすることはないと言えます。
まとめ
玄米の方が白米より栄養価が高く、日本人は長らく白米ではなく玄米に近いコメ(5分つき位のコメ)を食べてきました。
健康のために、玄米を食事に取り入れてみてはいかがでしょうか。
完全な玄米ではなく、時々玄米を食べる、あるいは3分つき~7分つき、胚芽米などを食べるでも良いと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
参考文献:「日本の食文化史 旧石器時代から現代まで」 石毛直道