近年、日本の生産性が低いということが大いに話題に上がっています。
今回は、なぜ、日本の生産性が低い理由について、こちらの著作を参考に簡潔にまとめてみます。
日本企業の大半は規模の小さい中小企業で占められています。
生産性を上げるためには、小さな企業を減らして、大企業と中堅企業を中心とした産業構造に再編することが必要と言われています。
たとえば、3000人の労働者を従業員数1000名の3社に分配するか、従業員数3名の1000社に分配するかを考えてみると、前者の方が全体の生産性が上がります。
日本は高い技術力を有しながら全体として生産性が低いのは、小さい企業が多いからと分析されています。
日本の生産性は以下のように相対的に見てかなり低い状態です。
・日本の時間当たり労働生産性:OECD 加盟 38 カ国中 23 位。
・日本の 1 人当たり労働生産性:OECD 加盟 38 カ国中 28 位。
ⅠOECD諸国の労働生産性の国際比較 (jpc-net.jp)
生産性とは「1人あたりのGDP」であり、GDPはその国で作られた付加価値の総和です。
生産性は付加価値の総額と労働者の数に影響されますが、労働者1人あたりの付加価値が高まるか、または労働参加率が高まれば、全体として生産性は上昇します。
2000年以降、日本の女性・高齢者・若年層の労働参加率は上昇し、2011年から2018年の間、生産年齢人口は618万人も減っている一方で、労働者数は371万人も増えています。
近年、女性の労働参加率が男性の参加率に近づいてきており、それが労働者数増加に貢献しているのですが、その女性の労働参加率も頭打ちを迎えつつあります。
そのため、日本の場合、今後は労働者1人あたりの付加価値を高めていく必要があるようです。
付加価値を生み出す生産性には
① 人数や時間で測る「人的資本の生産性」
② 設備投資などの「物的資本の生産性」
③ ①、②に含まれない「全要素生産性」
があります。
「全要素生産性」には、デザイン、特許などの技術、社員のスキルアップ、ビジネスモデルの改革、規模の経済などが含まれます。
日本はアメリカと比べると、人的資本や物的資本はそれほど大きくは違わないものの、全要素生産性が0.66倍しかないと報告されています。
日本の場合、全要素生産性がG7の中でも極端に低く、1990年~2007年のG7 各国の経済成長要因の分析では、平均0.8%に対して日本は0.2%でした。
日本の全要素生産性の低さは、人材や物的資本の配分が非効率であることが大きな原因とされています。
生産性は、人材や物的資本だけではなく「付加価値を生むために資源をどれだけ有効に、効率的に配分しているか」も重要であり、国の産業政策や経営者の質がそういった「産業構造の合理性・有効性」を左右すると言われています。
2018年の世界経済フォーラムのデータでは、日本の国際競争力ランキングは世界第5位でした。
これは12の要素でランキングを作ったもので、日本は「健康」、「市場規模」、「技術革新力」などで上位にランクインしているのですが、「スキル」や「社会制度」は低い順位です。
日本の国際競争力ランキングは世界の中でもかなり高い順位にあることは間違いないのですが、生産性が低いのは、冒頭に紹介したように、日本企業は大企業が少なく、中小企業が非常に多いことが影響しています。
「中小企業白書」によると、2016年の日本の企業の数は359万社で、大企業は1.1万社、それ以外は中小企業に分類されます。
中小企業の中でも、小規模事業者が全体の84.9%を占めています。
労働者1人あたりの創出付加価値(労働生産性)は、日本全体では546万円でした。
企業の規模別でみると、大企業では1人あたり826万円に対して、中小企業全体では420万円、小規模事業者は342万円になります。
大企業が少なく、小規模事業者が多いほど、全体の労働生産性が高まらないことが分かります。
日本は中小企業への優遇策が多く、そのことが中小企業の割合を増やしている一因になっているようです。
中小企業の優遇策には、法人税率の軽減、欠損金の繰越控除、欠損金の繰戻還付、交際費課税の特例、少額減価償却資産の特例などがあります。
もともと戦後の日本では中小企業の割合は今ほど多くはなかったのですが、1963年に「中小企業基本法」が制定されて以降、中小企業の数が年々増加しました。
さらに、1974年に「給与所得控除額」の大幅な引き上げが行われ、節税目的に多数の法人が設立されるようになったことも影響して、1964年には1社あたりの従業員数が25人だったのが、2016年には16人程度まで減りました。
また、最低賃金が低いことは規模の小さい中小企業を支援することにつながると言われています。
日本の人材の能力は国際的に評価が高いのですが、日本のように最低賃金がヨーロッパに比べて低い状態だと、優秀な人材を安価な賃金で雇うことができるので生産性が上がらないとされています。
多くの人を安く雇えば、それだけ効率化へのインセンティブも働きにくく、企業のコストが安く済むので小さい企業が増え、全体の生産性が上がりにくくなります。
今後、日本では人口減少と共に急激な速度で少子高齢化が進みます。
こうした時代の中で、日本の生産性を上げ、経済的な衰退を防ぐには国が大企業をサポートするとともに生産性向上に寄与できる中小企業についても支援していく必要があります。
中小企業の中でもサポートを受けるに値する企業は、以下の特徴を備えている必要があると言われています。
・イノベーションを起こす企業
・最先端技術の普及に寄与する企業
・成長を続ける企業
・輸出を行う企業
・研究開発に熱心な企業
・小規模事業者ではない中堅企業
成長する企業を支援するためには以下の政策が有効とされています。
①資源調達の支援
→知識・技術やビジネスのコンサル、研究開発など。ベンチャー資本、銀行借り入れ、公的資本提供など
②高成長するためのインセンティブの喚起
→イノベーションを起こす会社の社会的地位の向上、失敗への理解、イノベーションを起こす大企業の社員や大学の研究者の評価
③市場の整備
→起業規制の緩和、市場への参加を促す
④インフラの整備
→交通、ICT、教育、健康、法制度などのインフラの安定
以上、日本全体の生産性を高めるためには、生産性の低い中小企業よりも、規模の大きな企業を増やす必要があるという記事でした。
日本の生産性が低いというと、ネット記事ではよく長時間残業、無駄な会議、同調圧力、日本の文化的特徴などが原因としてやり玉に挙げられますが、データでみると中小企業の数の多さとそれを肯定する国の政策が生産性の低さに影響していることが分かります、
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。