メンタルヘルスは心の健康のことを指します。
企業で産業医をやっていると、面談の中でメンタルヘルス不調の社員との数多く出会います。
メンタルヘルス不調とひと言で言っても、うつ病、適応障害、双極性障害、統合失調症、強迫性障害、依存症など様々な疾患が存在します。
会社でメンタルヘルス不調となる方の大半は、長時間労働や業務のプレッシャーなどでストレスがかかって、うつ病や適応障害と診断される方々です。
そうした社員の方々が訴える症状というのは、とても痛ましいものです。
たとえば、夜中に何度も目が覚めてしまって全然眠れない、慢性的に強い頭痛が続いている、めまいがしたり耳の聞こえが悪くなってしまう、会議の時に動悸がして汗が止まらない、気分が落ち込んで休日になっても何も楽しめない、集中力が落ちて人の話が頭に入らなくなる、など様々なものがあります。
ストレスや過労によって出るこうした症状というのは、体が強いアラームを発している状態であり、放置すればますます症状が悪化してしまいます。
そうした社員の方々に対しては、仕事の負荷が高ければ直ちに残業を禁止したり業務を変えてもらうことがありますし、あまりに体調が悪ければ休職に入ってもらいます。
しかし、一体ここまで調子が悪くなるというのは、どれだけ酷いストレスや疲労を溜めてしまったのかと思うこともあります。
基本的に仕事というのは、事業主や作家、芸術家などの一部の人々を除いて、常に自分のペースでできる人は少ないので、どうしても普段からストレスや疲労がかかってしまうものですが、それにしてもメンタルヘルスの不調となる方々のストレスや疲労というのは相当なものであると考えられます。
ただ、一般的に負担が大きくないと思われている仕事でも、メンタルヘルスの調子を崩してしまう人は一定数います。
自分に裁量がない仕事、ひたすらやらされているだけで自分のアイディアやスキルが反映されない仕事というのは、モチベーションが上がりにくいので、ストレスや疲労も溜まりやすくなります。
また、慣れない仕事を始めると、進め方が分からずに混乱することが続いて強いストレスを感じることもあります。
一方でもの凄い長時間残業を続けていて、まともに休憩や睡眠が取れない状態が続いても、体を壊さずに乗り切れる人もいます。
仕事に充実感ややりがいを感じることができれば良いですが、そうではない仕事の内容であると、短い時間でもストレスや疲労が溜まりやすくなり、人によってはメンタルヘルス不調となってしまいます。
また、私が出会った社員の中には、役職が高くて仕事の内容にやりがいがあっても、その上司からの当たりが強くてストレスが増大し調子を崩してしまうようなケースもありました。
他にもいろんなケースはありますが、その人にしか分からないようなストレス、悩み、苦しみというのは様々に存在し、それは仕事でなくても、人生のことや、家庭の事情、人間関係、金銭問題、健康問題などからも当然生まれてきます。
心身の不調があって辛い時は病院を受診したり、休息を取るべきですが、人によってはそれでも解決しない苦しい問題があるかと思います。
どうにもならない時は、家族や友人、知り合いに相談したり、国や行政機関などの窓口へ相談することも時には必要です。
どんな苦しみも最終的には自分自身で克服していくしかありませんが、本当に苦しい時は少しでも苦しみを和らげるためにも、他者に頼ることが大事になってきます。
たとえ頼れる人が身近にいなくても、しかるべき場所に行けば医療従事者やカウンセリング・悩み相談などを行っている人たちに話を聞いてもらうことができるので、そうした人々を一度は頼ってほしいと思います。
もちろん、人と人との関係は相性もあるので、上手くいく場合とそうでない場合があるかと思いますが、他者に働きかけていくことでいつかは道が開ける可能性があります。
他者に頼らず、一人苦しんでいつかその苦しみを克服できれば良いですが、なかなか解決せずに希望が失われてしまうと生きる気力も衰えてしまう恐れがあるので、他者の力を借りることを忘れてはならないと思います。
日本人は自己責任論が強いと言われますが、メンタルヘルス不調になったり、心身が苦しい状況に陥った人は、何が原因であったとしても責められるべきではないですし、援助されるべきです。
もともと人間社会は互助のもとに成立したものでしたが、段々と社会の中で分業が成立し、特に都市部では昔のような小さいコミュニティでお互い助け合っていく風習が失われてしまって、現代では他者に頼る習慣があまりない人が増えてきています。
苦しい時こそ他者に頼り、その上でメンタルヘルス不調を回復させたり、苦しみを少しづつでも克服していって欲しいと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。