ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)について

ソーシャルジェットラグとは社会的時差ボケと呼ぼれ、平日と休日との睡眠リズムの違いから体内で時差ボケが発生した状態を指します。

ソーシャルジェットラグは体の不調につながることが指摘されており、今回はその社会的時差ボケについて解説を行います。

体内時計

私たちの体には、体内時計と呼ばれるものがあり、睡眠リズム、体内のホルモン分泌、臓器の活動など、これらが1日24時間の周期に合わせて働けるよう、体内時計が調整、制御を行っています。

人間の体内時計は厳密には24時間よりも長かったり短かったりするので、1日の周期に合わせられるよう、目で昼と夜の明るさの違いを認識することで、体内時計を24時間に調整しています。

1日が24時間というのは普遍的なように思えますが、約2000万年前は、1日の長さは22時間くらいであったと言われており、地球が誕生した時は1日の長さは更に短く、時代によって1日の時間というのは異なることが分かっています。

そのため、私たちの体内時計が24時間ではないことは不思議ではなく、外部の光の強さによって体内時計を調整する仕組みになっています。

クロノタイプ

私たちの体内時計は個人差があり、これがいわゆる「朝型」、「夜型」のタイプに影響を与えています。

「朝型」の人は、早寝早起きが身についており、朝の早い時間帯に活動的になれますが、「夜型」の人は朝早く起きることが難しく、朝よりも夜の方が活動的になれます。

これは個人の体内時計に影響されていることが分かっており、「夜型」の方が体内時計が24時間よりも長い傾向にあります。

この「朝型」、「夜型」をクロノタイプと呼んでおり、クロノタイプは生活習慣による影響と、遺伝子による影響があることが分かっています。

就寝・起床時間、食事の時間といった生活習慣を変えることで、もともと「夜型」の人が「朝型」になったり、「朝型」の人が「夜型」になることは可能ですが、遺伝子の影響もあるので、人によってはそれが難しかったり、とても苦労することがあります。

また、年齢を重ねることで、このクロノタイプが「朝型」になる傾向があることも分かっています。

Chronotypes in the US – Influence of age and sex - PMC (nih.gov)より引用

アメリカの5万人以上を対象にした睡眠の調査では、年齢、性別でクロノタイプにばらつきがあることが分かっています。

上のグラフでは、緑が男性、赤が女性のデータを表していて、縦軸がクロノタイプを表すための睡眠の中間点の時間(たとえば0時就寝、8時起床なら中間点は4時)を示しており、この時間が遅いほど(グラフでは上に行くほど)「夜型」ということになります。

横軸は年齢を示しており、18歳ごろまでは成長に従って睡眠の中間点が遅くなる、つまり「夜型」になる傾向があり、それ以降の年齢になると、どんどん「朝型」になっていくことが分かります。

男性も女性も同じ年齢でグラフに幅があったり、丸い点がありますが、これは同年齢でもクロノタイプに幅があることを示していて、丸い点は平均に近い範囲からかなり外れたデータの人がいることを表しています。

現代社会の生活とクロノタイプ

文明が発達する前は、人間は昼は明るい場所で過ごして、夜は暗い場所で過ごすことが一般的だったので、体内時計の調整は太陽の光で行っていました。

しかし、文明が発達すると、夜の時間帯も人工的な光の下で明るい場所で過ごすようになったので、体内時計にも影響が出るようになります。

「夜型」のクロノタイプの人は、もともと体内時計が24時間よりも長い傾向にありますが、夜に人工的な光を浴びることで、体内時計がさらに長くなって睡眠リズムが後ろ倒しになりやすいことが知られています。

そのため「夜型」の人は、人工照明のなかった時代に比べてさらに遅い「夜型」になっている人が多いようです。

睡眠負債

睡眠負債とは、平日に十分睡眠を取れないことで蓄積した睡眠不足のことで、借金のように積み上がることから負債と呼びます。

多くの人の体内時計は24時間より長く、平日に仕事や学校に行く時に目覚まし時計なしで起きるには厳しいと言われています。

つまり、平日に朝早く起きなければならない人の多くは睡眠負債を蓄積しやすい傾向にあると言えます。

平日に早く寝て睡眠時間を確保できれば良いですが、仕事や家事、勉強などでそれができないと、週末に多く睡眠を取ることで睡眠負債を取り戻すことになります。

ソーシャルジェットラグ

ソーシャルジェットラグとは、平日と休日の起床・就寝時間のズレにより時差ボケが発生している状態のことを指します。

日本から離れた場所に海外旅行に行くと時差ボケが発生しますが、平日と休日で起床・就寝時間が大きく異なると、それと同じような時差ボケが生じることが知られています。

Chronotype and Social Jetlag: A (Self-) Critical Review - PMC (nih.gov)より引用

上のグラフは、アメリカの睡眠データベースから分析されたソーシャルジェットラグの時間とその割合を示しています。

縦軸がソーシャルジェットラグの時間で、横軸が全体の中で占めるパーセンテージです。

これを見ると、ソーシャルジェットラグがない、またはマイナス(平日よりも休日の方が早起きしている)の割合は合計で15%程度と少なく、ソーシャルジェットラグがプラス(平日よりも休日の方が遅く起きている)の人たちの方が多いことが分かります。

ソーシャルジェットラグが1時間の人は20%以上、2時間の人は12%程度もいるように、多くの人たちが休日は平日よりも遅く起きているようです。

このソーシャルジェットラグがあると、体内時計が後ろに進んでしまい、週明けに早く起きることが辛くなってきます。

さらに、ソーシャルジェットラグによって、肥満や抑うつ症状のリスクが上がったり、認知機能低下につながると報告されています。

クロノタイプが「夜型」の人の方が、ソーシャルジェットラグが起きやすいと言われています。

平日は睡眠不足で睡眠負債がたまり、週末にたくさん寝だめをすることでソーシャルジェットラグが発生しますが、研究では週末の2日間遅く起きるだけで体内時計が45分もずれることが報告されています。

10代後半の人たちはクロノタイプが「夜型」になる傾向があるので、海外では学校の始業時間は多くの学生にとって早すぎるのではないかという意見も出ています。

ソーシャルジェットラグによるデメリットを避けるために

平日、休日ともに十分な睡眠時間が確保できれば理想的ですが、平日は仕事や家庭のことで睡眠が十分とれない人も多いと思われます。

また「夜型」のクロノタイプの人は、意識しないとどうしても遅くまで起きてしまいがちで、平日に早起きしないといけない場合は、睡眠負債が溜まって、ソーシャルジェットラグが生じやすくなります。

ソーシャルジェットラグを発生させないようにと、平日の睡眠時間が足りていないにも関わらず、休日も早く起きようとして短時間睡眠を続けると、休日に寝だめをしている人よりも死亡率が上昇することが報告されています。

そのため、平日に十分眠れていない人が、休日に無理に早起きして睡眠時間を減らすのはやめた方が良いでしょう。

ただ、そうすると休日に寝だめすることでソーシャルジェットラグが発生して、その分、時差ボケによる不調を経験することになります。

ソーシャルジェットラグによる不調をなるべく避けるためにできることとしては、以下のことがあります。

①平日に睡眠不足にならないよう、遅い時間まで活動せず、普段からしっかり睡眠を確保する。
②平日に十分眠れない場合は、休日は多少寝だめをしても良いが、起床時間を平日よりも2時間以上遅らせないようにする。
③睡眠不足で休日にたくさん寝る必要があり、平日との起床時間の差を2時間以内にするのも辛い場合は、休日に短時間の昼寝をすることで休日にもう少し早く起きられるようにする。

③で挙げた昼寝をする場合は、昼から夕方の時間帯に、15分~30分程度取ることをお勧めします。

昼寝の時間が1時間や2時間と長くなると、夜に眠れなくなりますし、長い昼寝は健康状態が悪いことと関連があると報告されているので、昼寝は短時間で済ますようにして下さい。

また、睡眠の質を良くするためには以下のことが大事になってきます。

  • 適度な運動をする
  • 午前中に日光をしっかり浴びる
  • 寝る前にPCやスマホ、TVなどを見ない。部屋の電気を暗めにする。

運動することや、朝に日光を浴びることは、質の良い睡眠をとる上では重要になってきます。

また、夜の時間に人工的な照明を強く浴びることは、神経を興奮させて寝つきを悪くさせ、体内時計を長くする原因になるので避けることをお勧めします。

まとめ

人間の体内には体内時計があり、身体の活動が24時間周期になるよう、外部の光の強さを指標にして調整しています。

体内時計には個人差があり、「朝型」、「夜型」のクロノタイプに影響を与えています。

平日に睡眠負債がたまることで週末は起床時間が遅くなり、ソーシャルジェットラグが発生します。

ソーシャルジェットラグは、肥満や抑うつ症状、認知機能の低下といった健康障害のリスクに関わっています。

ソーシャルジェットラグによる不調を避けるために、普段から睡眠時間をしっかり確保して、平日と休日の起床時間の差は2時間以内に留めることをお勧めします。

以上、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

参考文献:Till Roenneberg et al "Chronotype and Social Jetlag: A (Self-) Critical Review" Biology-Basel 2019

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