年金制度について

今回は現在の年金制度について、こちらの本を参考に解説してみます。

民主主義のための社会保障

国が主体で行う年金の徴収と支払いの制度を、公的年金制度と呼びます。

この公的年金制度の仕組みは「働いている現役世代が生み出した付加価値を、引退した高齢者に分配する」ことです。

「働いている人が働いていない人を含めた全人口を支える」という意味では、年金制度も普通の社会と基本構造は同じと言えます。

ですので、公的年金は日本経済の縮図でもあり、公的年金の課題は日本社会・経済が抱える課題と同じということになります。

公的年金は「付加価値の分配」であることから、日本経済がつぶれない限り、年金制度もつぶれることはありません。

その点で、将来、少子高齢化によって年金が一切もらえなくなるかもしれないという考えは無用の心配です。

ただ、医療や介護と同じように、年金制度の内容も経済の動向が大きな鍵を握っており、年金制度だけでなく日本経済・社会の課題に取り組まなければ、将来もらえる年金の額が減少するということは間違いありません。

年金制度に関してよく言われるのが、年金は長生きに対する「保険」であるということです。

火災保険が対象としているのは「火災のリスク」ですが、年金が保険の対象としているのは、「長生きのリスク」です。

火災が起こっても困らないように保険をかけておくのが火災保険であり、長生きしても困らないようにするのが年金という保険です。

そのため、年金は死ぬまで給付されるのが基本です。

保険料は国民保険が月額16900円、企業に勤めている人が加入する厚生年金は給与の18.3%でこれは本人と会社が半分ずつ支払います。

年金の受け取りは原則65歳ですが、受け取り開始年齢を60歳から75歳の範囲で変更することが可能で、開始を早めればその分もらえる年金は減り、遅くすればもらえる年金は増えます。

国民年金は20歳から60歳まで40年間保険料を支払えば、月額65000円もらえます。

厚生年金は現役時代の収入によって額は変わりますが、現役時代の50%以上はもらえるようになっています。

2004年の年金制度の改正で、厚生年金の支払いが給与の18.3%と固定され、消費税増税によって基礎年金国庫負担分、つまり国が年金を支払う分は2分の1まで引き上げられました。

これに加えて国が積み立てしていた資金を計画的に取り崩して年金支払いに活用するようになります。

そして、「マクロ経済スライド」が導入され、年金制度が長期にわたって継続するような仕組みが完成しました。

「マクロ経済スライド」とは、現役世代が負担できる範囲内で高齢者への年金の支払い金を調整する仕組みです。

これは物価や賃金の変動も考慮して調整するものです。

賃金や物価が上昇した際に、年金もその分増やすのでなく、少し低めに増やして年金制度が長期的に維持できるように調整する仕組みです。

参考リンク:マクロ経済スライド|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

ですので、この「マクロ経済スライド」がある限り、年金制度は破綻しないようになっているのです。

ただ、「マクロ経済スライド」は年金制度を維持するための一時的なものとして設計されており、現在の日本では長く続ければ続けるほど将来の年金の支給額が減ってしまう見込みです。

「マクロ経済スライド」を早めに終わらせて年金制度の収支を改善するには、少子高齢化の改善や経済成長が必要と言われています。

現在では、それらに加えて非正規労働者も厚生年金制度に加えることで、非正規雇用者の年金支払額を増やし、年金の収入を増やそうということも議論されています。

しかし、厚生年金は支払いの半分を会社が行うので、経済界は難色を示しています。

日本人の平均寿命は昔に比べると伸びており、年金制度を健全に維持するためには、仕事の引退年齢を上げて、年金を収める人の数を増やし、年金をもらう人の数を減らすという方策も有効と言われています。

日本人の平均寿命はここ50年で約10年伸びましたが、引退する年齢はそれに合わせて伸びている訳ではありません。

年金の給付額の維持のためには、目安として平均寿命のうち3分の2は働いて、残り3分の1を引退した年金をもらう期間とすると良いとされています。

しかし、平均寿命が延びたからと言って、人間が健康で十分に働ける期間が延びているかどうかは分かりません。

働く期間を伸ばして、年金をもらう年齢を後ろ倒しにするというやり方がどこまで通用し、人々や社会にとって良いことなのかどうか(70代、80代になっても働く人はいますが、加齢で能力が落ちることは避けられません)は不明です。

年金は受給開始年齢を遅らせるほど年金の額が上がる仕組みになっています。

1年遅らせると約8%増額し、70歳にすると約40%以上増えます。

仮に国民年金だけを払ってきて、20歳から60歳まで毎月年金を支払っていたとしたら、70歳から年金をもらう場合、65000円×1.4なので、約91000円が月に支給されることになります。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金の積立金を投資で運用しており、その運用益が莫大であることはニュースで報じられてる通りです。

2022年度の運用状況|年金積立金管理運用独立行政法人 (gpif.go.jp)

年金資金の運用は賃金上昇率+1.7%の運用利回りを目標にしていますが、現在までに1.7%を上回る利益が出ているので、積立金には余裕があると言えます。

ただ、この積立金は将来の少子高齢化がさらに進んだ時代のために残しておくべきものであり、1997年のアジア通貨危機の際に積立金を流用したことで積立金が減り、その影響が現在まで残っていることから、安易に取り崩すべきではないと言われています。

以上、年金制度の細かいところをざっくりと?まとめてみました。

結論を言うと、今の年金制度自体は崩壊することがないように設計されているものの、少子高齢化と経済衰退によって、将来もらえる年金はじわじわ減っていくことが予想されます。

少子高齢化は避けようがありませんが、現役世代への経済支援によって少しでも少子化を食い止める必要があることと、日本経済の再活性化のために先進的な事業や起業をより支援していく必要があります。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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