運動の効果

今回は運動の重要性についての記事です。

継続的な運動は実行機能を高める

「実行機能」とは何かをやりとげるための脳機能のことを指します。
実行機能には以下の機能が含まれていると言われます。

・「ワーキングメモリー」:日常生活で何かを実行する時に情報を一時的に記憶して作業に役立てる機能

・「抑制」:目的を達成するために行動・注意・思考をコントロールする機能

・「認知の柔軟性」:必要に応じて思考や行動を柔軟に切り替える機能

これらの実行機能を運動をすることで向上させることができます。

Benefits of regular aerobic exercise for executive functioning in healthy populations - PubMed (nih.gov)

こちらの論文では継続的な有酸素運動が実行機能の向上に有効であったと報告されています。

身体を動かすことと、仕事や勉強、家事などをやり遂げる機能がリンクしているということが分かります。

座りっぱなしの生活は脳に影響を及ぼす

運動せずに1日中家の中で座りっぱなしでいることは健康に非常に有害です。

Sedentary behavior associated with reduced medial temporal lobe thickness in middle-aged and older adults (plos.org)

こちらの2018年に報告された論文によると、45歳~75歳の男女の生活様式と脳について調べたところ、座っている時間と、脳の内側側頭葉の厚さに関連性が認められました。

座っている時間が長いほど内側側頭葉が薄くなるというのです。内側側頭葉は記憶の形成に関わっている脳の領域です。

1日中、身体を動かさずに座り続けることは避けた方が良いことが分かります。仕事などで同じ場所に座り続けなければならないとしても、折を見て立ち上がったり歩く機会を増やすことが良いでしょう。

運動で海馬を活性化させる

脳の海馬という領域も記憶に関わっています。

歳をとると海馬が徐々に小さくなり、記憶力が衰えていきます。

認知症の所見の1つに海馬の萎縮があり、海馬は記憶力を維持する上で非常に重要な脳の領域です。

歳をとっても継続的な運動を行うことで、海馬の体積が増加したという報告があります。

Exercise training increases size of hippocampus and improves memory | PNAS

こちらの論文では55歳~80歳の被験者120名が2つのグループに分けられて、1年間、片方のグループは週に3回40分、適度なペースでウォーキングを行い、もう片方のグループはストレッチやダンベル運動などを行った結果を報告しています。

ウォーキングを行ったグループは海馬の体積が約2%増加し、ストレッチなどを行ったグループは海馬の体積が約1.4%減少しました。海馬の体積の増加に伴って記憶力の向上も認められたようです。

ストレッチなどを行ったグループの海馬の体積が減少したのは、中高年以降は時間の経過とともに海馬の体積が自然に減少してくるからです。

ウォーキングは海馬の体積の現象を防ぎ、逆に増加させていることが分かります。

運動はストレス耐性を向上させ、テロメアを保護する

Effects of a 12-week endurance training program on the physiological response to psychosocial stress in men: a randomized controlled trial - PubMed (nih.gov)

こちらの論文によると中年の男性らが12週間の期間、継続的に運動を行うことでストレスがかかった時に起こるコルチゾールというホルモンの分泌や心拍数の増加といったストレス反応が弱くなったことが報告されています。

ストレス反応が弱くなったということはストレス耐性が上がったことを示唆しています。

テロメアは細胞の中の染色体の末端にある構造で細胞の老化具合の指標となります。

テロメアは「命の回数券」とも呼ばれ、細胞分裂のたびにテロメアは短くなり、一定の長さまで短くなると細胞は分裂ができなくなって死に至ります。

健康な生活を維持すればテロメアの短縮を遅らせることができますが、不健康な生活を送ればテロメアの短縮が早くなります。100歳以上の高齢者はこのテロメアが長いことが報告されています。

Aerobic exercise lengthens telomeres and reduces stress in family caregivers: A randomized controlled trial - Curt Richter Award Paper 2018 - PubMed (nih.gov)

こちらの論文は50~75歳で家族の介護を行い、日常的に強いストレスを受けている人々を被験者とした研究報告です。

論文によると、半年間、週に3-5回少しきつめの運動を行うことでストレスレベルが低下し、更にテロメアが長くなったことが報告されています。

運動の勧め

継続的な運動によって実行機能、記憶力、ストレス耐性が向上することが分かりました。

運動には様々な種類がありますが、これらの効果を得るには有酸素運動が良いようです。

有酸素運動は長時間継続して行う運動であり、ウォーキング、ランニング、水泳、サイクリングなどがあります。

勉強や創作活動、アイディア創成など知的活動を行っている人たちは、脳を活性化させるためにも日常にこうした有酸素運動を取り入れることをお勧めします。

運動量の目安ですが、ウォーキングであれば1日の歩数が運動量の目安となります。

健康日本21目標値一覧|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

厚生労働省の健康日本21の目標値によると、男性であれば9200歩以上、女性であれば8300歩以上が1日の歩数の目標になっています。

歩数の目標は?歩数と健康についての科学的根拠まとめ - Riklog

こちらの海外のエビデンスをまとめた記事によると、歩数の目標としては、1日8000歩程度で良く、年を経るごとに歩数が増えることが望ましいとしています。

仕事などで忙しくて運動時間が確保出来ない場合でも、上記のように1日8000歩以上を歩くことを目標にすると良いと思われます。

https://toyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=10222&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

なお、江戸時代は1日30㎞を歩いて旅することは普通だったようで、30㎞であれば40000歩以上の歩数になります。年中旅をしていた訳ではないので、江戸時代の人々が毎日40000歩以上歩いていた訳ではありませんが、現代人と比べると江戸時代の人々はかなり健脚であったことが想像されます。

最後に、運動は心身にとって良い効果がありますが、無理をするとかえって健康を害してしまいます。

1日8000歩以上は1つの目安ですが、体力が落ちていたり弱っている時は8000歩以上歩くことがかえって身体の負担になる可能性もあるので、そうした場合は無理をしないようにして下さい。

その他の運動も同様で、自分に合った適度な運動量で楽しみながら続けていくと良いでしょう。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

参考文献:「頭を良くしたければ体を鍛えなさい 脳がよろこぶ運動のすすめ」陳冲、望月泰博 著

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事