今回は睡眠時間についての記事です。
目次
日本人の平均睡眠時間
睡眠は健康で快適な生活を送る上では欠かせません。近年、日本人の睡眠時間が短くなってきていることが指摘されています。
02_3_2020west.pdf (west-univ.com)
こちらの論文によると、G7の中で日本の平均睡眠時間は最下位であり、G7の平均睡眠時間が8.4時間に対して日本人は7.4時間となっています。
睡眠の経済分析~労働生産性の向上を目指して~より引用
総務省統計局「平成 28 年社会生活基本調査」によると、日本人の平均睡眠時間は減少傾向にあり、1976 年から 2011 年にかけて 26 分減少しています(図 2)。特に働いている有業者の睡眠時間の変化が大きく、1976 年から 2011 年で 36 分減少しています。
世界の各地域の睡眠の歴史
現代人は太陽が沈んだ後も、テレビやスマートフォンを使用して夜遅くまで起きているので、古代の電気のない生活をしていた時代の人々に比べて睡眠時間が短いと思われがちです。
しかし、ある研究ではそうではないことが指摘されています。以下、リンク先の記事と、記事に引用されている論文の内容です。
The History of Sleep - Historical Patterns Before Electricity (sleepadvisor.org)
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UCLAを中心とする研究チームが、人類の祖先の生活様式に近い伝統的な民族の睡眠パターンを調査した結果、先進工業国の睡眠習慣は工業化以前の祖先のそれとあまり変わらないことが判明した。
研究者たちは、タンザニアのハッザ族、ボリビアのツィマネ族、ナミビアのサン族の睡眠パターンをモニターした。この研究は、現代において採食と伝統的な狩猟生活を営む人々の睡眠習慣を調査した初めてのものである。
この結果、「昔の人は日没になると寝る」という俗説が払拭された。この研究の被験者は、日没後も平均3時間半近く起きていた。「私たちが日没後何時間も起きているという事実は、全く正常なことであり、新しい現象ではないようです」と、シーゲル博士は言う。
シーゲル博士のチームが調査した人々のほとんどは、毎晩7時間未満しか眠っておらず、平均6時間25分を記録している。これは、ヨーロッパやアメリカの工業化社会で記録された成人の平均睡眠時間の下限である。また、睡眠時間は季節によって異なり、夏は短く、冬は長くなることがわかった。
さらに、被験者は夜中にほとんど目を覚まさないことがわかった。
研究者らは、この睡眠研究の結果を踏まえ、二相性睡眠は古代の社会がヨーロッパに向かってさらに北上した後に進化したもので、夜が長くなることで睡眠パターンが妨げられ、最終的に細分化された休息につながった可能性があると指摘している。
Full History of Sleep – How Ancient Humans Slept Before Electricityより引用
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以上のように、南アメリカやアフリカの3か国の狩猟を生業としている民族の睡眠調査の結果では、夜寝るのは日没から3,4時間経過した後であり、平均睡眠時間は6.25時間と先進国の平均睡眠時間に比べて短いことが分かります。
上記の引用にも出ていますが、ヨーロッパのある時代には夜間に2回に分割して睡眠をとる二相性睡眠が見られたようです。
以下、上記リンク先記事の引用の続きです。
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Roger Ekirchは、中世末期からルネサンス期にかけて、分割型睡眠が一般的であったことを、文献資料をもとに指摘している。この時代には、夜中に1回目と2回目の睡眠をとり、その間に穏やかな目覚めの時間を経験することが規則的な習慣と考えられていた。
19世紀、産業革命の最盛期になると、一日の労働時間が長く、工場では2交代制をとるなど規則正しい生活をしていたため、人々は好きなときに昼寝をすることができなくなった。そのため、昼寝を1回のサイクルにまとめるようになった。
さらに、街灯や電気が普及すると、都市生活者は二相性睡眠から脱却。また、時間の経過を意識するようになり、起きている間の生産性を高めるようになった。
1920年代には、二相性睡眠、分割睡眠という概念は完全に消滅した。
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二相性睡眠では、夜中に一度目覚めて、人々はその時間は好きな活動を行っていたようです。
昔の日本人の睡眠サイクル
それでは1000年以上前の日本人の睡眠サイクルはどうだったのでしょうか?
https://core.ac.uk/download/pdf/198408174.pdf
こちらのリンク先の論文によると、
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就寝については 『万葉集』 の第607番 、笠女郎が大伴家持に送った歌が参考になる。
皆ひとを
寝よとの鐘は
打つなれども
君をし思へば
寝ねかてぬかも
鐘で寝入る時刻を知らせるのは、 いろいろな点で興味深い。(中略)この歌の中の鐘は、寺院で仏法を修行する時に時刻を知らせる時鐘であ る。J.L.Piersonは、奈良時代には寺が亥の刻になると、つまり夜の10時に、寝入りの時刻を鐘によって知らせたと、 その歌を説明している。
(中略)
前述した『万葉集』の歌をこの時刻制度(寺院で用いられた六時という制度)で解釈すると、鐘が打たれたのは初夜と中夜の境目(初夜(18-22時)、 中夜/半夜(22-2時))ということになる。
(中略)
「暁が近くなったのであろう」 というところから、平安京の庶民が、女のもとに通う男よりもさらに早く目覚めていて、 暁とともに働き始めていた ことが想像できる。
ヨーロッパ でも、歯車を使った時計が一般になる前つまり近代までは、道で歩いている人の見分けや硬賃を区別できる光度が仕事の始まりの目印になっていた。
平安時代の8月の十五夜は現代の9月の満月に当たり、平安京では日の出は6時頃で、 明け方は5時13分頃に当り、 それは夏至には4時5分で、 冬至には6時25分前後になる。当時の庶民はその前には起きていたのであろう。
「古代日本人はいつ寝ていたか」より引用
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以上より、奈良・平安時代のような古代日本でも、就寝時間の目安は日没後すぐではなく22時ごろか、あるいはその前後の時間帯の可能性があり、起床時間は日の出の時間帯で、それも季節によって変わっていたということが推測されます。
睡眠時間と死亡リスク
睡眠時間と死亡リスクとの関連について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究 | 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト (ncc.go.jp)
1990年代から平均約20年間、10万人弱の日本人を対象にアンケートで追跡調査を行った研究の報告です。
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対象者(99860人、男性46152人、女性53708人)から回答いただいた研究開始時の調査アンケートの結果をもとに、日頃の睡眠時間を5時間以下、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上のグループに分け、その後、平均約20年の追跡中に、18042人(男性:11259人、女性:6783人)の死亡が確認されました。
男女とも睡眠時間が長いと全死亡リスクが高い
平均睡眠時間は男性で7.4時間、女性で7.1時間でした。
(中略)
睡眠時間が7時間のグループと比べて、10時間以上では、死亡全体のリスクが男性で1.8倍、女性で1.7倍高くなりました(図1左)。循環器疾患死亡については、男性で、7時間のグループと比べて、9時間以上でリスクが高い関連が示されました(図1中央)。睡眠時間とがん死亡リスクとの関連はみられませんでした(図1右)。
今回の結果から、日本人では、睡眠時間が7時間のグループと比較して睡眠時間が長い場合に、死亡リスクが増加することが示されました。この背景に、どのようなメカニズムがあるのかは、まだ解明されていません。
(中略)
今後の研究によって、睡眠時間と死亡リスクに関する更なるメカニズムの解明が必要です。
睡眠時間と死亡リスクとの関連についてより引用
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以上、睡眠が長すぎるとかえって死亡リスクが上がるという報告から、睡眠時間が長ければ長いほど良いという訳ではないようです。(なお、この研究は因果関係を示すものではないので、もともと健康状態の悪い人の中には睡眠時間が長い傾向があるという仮説も立てられることから、解釈には注意が必要です)
必要な睡眠時間
当然ですが必要な睡眠時間は個人個人で異なります。
世の中には短時間睡眠でも平気な人もいますし、7-8時間以上しっかり寝ないと本当に健康を崩してしまう人もいます。
私は仕事の中で多くの労働者と面談を行っていますが、4-5時間程度の短時間睡眠でも健康に問題ない人は確かにいますが、割合的にはとても少ないです。
仕事が忙しくて4-5時間以下しか睡眠が確保できない人の多くは睡眠不足による不調が多かれ少なかれ現れてきます。
仕事のプレッシャーなどで神経が高ぶってしまったり、不安が増大するなどして、眠れなくなってしまうと様々な心身の不調が出現します。
私が出会った労働者の中には、過去に仕事が激務で心身の調子を崩してしまった経験があり、不調が再発しないよう、忙しくても睡眠だけは7時間以上努めて確保している人もいました。
必要な睡眠が確保できないというのは最も健康を害する行為の1つです。健康で幸せな生活を送りたければ常に十分な睡眠を確保することが大切です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。