飲酒の健康影響について:脳と死亡リスク

今回は飲酒による健康への影響についての記事になります。

アルコールを一気に飲み過ぎてしまうと急性アルコール中毒になったり、年中お酒を飲んでいて酒が手放させなくなってしまうと、いつかアルコール依存症になってしまうことは皆さんもご存じのことと思います。

それ以外にも、アルコールには、取り過ぎで脳が委縮する、肝臓が悪くなって肝硬変や肝臓がんになる、尿酸値が上がって痛風になるなどの危険性があります。

アルコールは決して取り過ぎてはいけず、一般的にお酒は飲んでもほどほどが良いと言われています。

ですが、近年の研究では、ほどほどのお酒でも、実は体に影響を及ぼす可能性があることが報告されています。

今回はそれらの研究報告について紹介します。

アルコールと脳

Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study | The BMJ

こちらは英国で行われた研究で、527名の被験者に対して、30年間にわたって週1回のアルコール摂取量と認知パフォーマンスを繰り返し測定したコホート研究です。

結果、アルコールの摂取量が多いほど、海馬の萎縮が強くなることが分かりました。アルコール使用量の多さは、脳梁の微細構造の違いや語彙流暢性の低下の速さとも関連していました。

No safe level of alcohol consumption for brain health: observational cohort study of 25,378 UK Biobank participants | medRxiv

こちらの英国で行われた研究では、25378人の参加者の脳をMRIで検査し、同時に飲酒量を調査しています。

報告によると、アルコール消費量が多いほど、脳の灰白質密度が低くなる相関関係がみられました。また、高血圧や高BMIなどがある人は、その負の相関がより強くなるといった結果が得られました。

この結果から、少しのアルコールでも脳に悪影響が出ることが示唆されています。

論文のこちらのデータからは、Grey matter(脳の灰白質)はアルコールの消費量が多いと、最大で約0.8%小さくなっていることが分かります。

アルコールと死亡リスク

適度なアルコールは死亡リスクを下げるという報告があります。

飲酒とJカーブ | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)

こちらの40-79歳の日本人を対象にしたコホート研究では、グラフの緑の線にあるように、もともとお酒を飲まない非飲酒者よりもある程度飲酒をしている方が、総死亡の相対危険度が下がっていることが分かります。ただし、男女ともたくさん飲酒していると総死亡の相対危険度がかなり上がっていることは見逃してはなりません

これはアルコールを適度に消費している人の方が、心臓や血管の病気にかかるリスクが少ないことも関連していると考えられています。

ただ、これは因果関係を示す研究ではないので、たとえばお酒を飲む人の方が経済的に余裕がある、もともとお酒を飲めない人の中には健康状態が良くない人もいる、といった仮説も立てることができるので、必ずしもお酒を飲めば死亡リスクが下がるとは断定できず、解釈には注意が必要です。

また、次に示す近年の海外の研究では、アルコールの適量とされている1日20g(ビールなら500ml、日本酒なら1合)でも死亡リスクが上がる可能性があることが報告されています。

Risk thresholds for alcohol consumption: combined analysis of individual-participant data for 599 912 current drinkers in 83 prospective studies - PubMed (nih.gov)

こちらの論文は心臓や血管系の病気にかかったことがない、現在飲酒をしている19カ国、599912人のデータを調査したものです。

アルコール消費量と全死亡、心臓や血管系の病気との関連を評価したところ、左のグラフのように全死亡については、アルコール摂取量と正の曲線的な関係が認められ、死亡リスクの最小値は週100g程度かそれ以下でした。

心筋梗塞のリスクは右のグラフのようにアルコール摂取が週に100gくらいが最も低くなってていました。

週に100g以下飲んでいる人と比較して、週に100~200g未満、200~350g未満、350gよりも多く飲むと答えた人は、40歳時点での平均寿命がそれぞれ約 6ヶ月、1-2年、4-5年短かったとのことです。

以上より、お酒をある程度飲んでいる方が心筋梗塞の発症リスクは下がる可能性がありますが、死亡リスクはアルコール摂取で大きくは下がらず、週に100g(つまり1日あたり14-15g)よりも多く摂取すると、死亡リスクは上がっていくことが示唆されています。

Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016 - PubMed (nih.gov)

こちらは世界195か国で行われた592の研究を統合したもので、アルコールと病気のリスクを調べたものです。

グラフでは1日1杯までのアルコール(純アルコールで10g。グラス一杯のワインに相当)までなら病気のリスクは上がらず、それより増えると病気のリスクが上がっていくことが分かります。

この研究でも、少量のアルコールであれば心筋梗塞のリスクは下がるという結果が出ているのですが、乳がん、結核、アルコールに関連した交通事故や怪我のリスクは、少量のアルコールでも上がるという結果になっており、双方でリスクを打ち消し合ってこのようなグラフになっていると考えられます。

まとめ

以上より、アルコールは少量でも脳に影響を与える可能性があります。

また、日本人の研究では男性では1日約70gまで、女性では46gまでの量のアルコールを摂取している人の方が飲まない人よりも死亡率は低くなっていますが、解釈には注意です。

世界各国の多数の研究を分析した報告では、アルコール摂取が1日20g以上から死亡率が上がっています。

近年、お酒の消費量は以前に比べて減ってきていますが、まだまだお酒が好きな人は多いと思われます。

ストレス解消のためにお酒を飲むという人もいるかと思いますが、健康のためにも、もっと体に良いストレス解消法を見つけてはいかがでしょうか。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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