今回はこちらの本の読後の感想も含めた記事です。
日本の医療は国民皆保険制度であり、私たちは非常にめぐまれた制度の下で医療を受けることができます。
しかし、日本の高度経済成長に伴って築き上げられたこの制度が、今や限界を迎えつつあることが分かってきています。
日本の健康保険制度に加入していれば、誰もが保険のおかげで病院を受診する時に、実際の医療費の3割負担で済みます。
残りの7割は、保険料と公費でまかなわれていますが、少子高齢化と医療の高度化の影響で年々医療費が増加しているため、このまま患者3割負担を維持できるかは怪しいです。
医療費は2019年度には年間44兆円にも達して、ここ15年で10兆円も増えています。
この先、私たちが加入している国民健康保険や健保組合などに支払っている保険料がさらに増えてくると思われますし、場合によっては患者負担の割合が4割、5割、と段階的に上がってくることも予想されます。
この本でも指摘されていますが、医者も患者もコスト意識がないので、検査や治療においてどれだけコストがかかっているかということを多くの場合、度外視して診療が行われています。
命にかかわる重篤な病気や怪我においては、出し惜しみをせず薬や検査機器を使って治療を行う必要があります。
しかし、定期的な検査においてCTやMRI検査を頻回に行ったり、必要のない抗生物質の処方などが行われている現状があり、これらはいたずらに医療費を増やしている一因となっています。
抗生物質については、ウイルス感染には効果がないことや、耐性菌を生み出すリスクがあることから、常に適正な使用が求められるのですが、残念ながら今でも医者も患者も、ちょっとした風邪でも抗生物質を出すことが当たり前と考える風潮があります。
私たちは毎年高い保険料を支払っていますが、もし無駄な検査や薬の処方を減らして保険料が2000円でも3000円でも減るのであれば、そうしたコスト削減に異を唱える人はいないでしょう。
また、がんに対する最新の治療薬の費用というのは今や非常に高価になってきており、たとえばオプジーボという薬は、2014年に初めて承認されたとき、体重66kgの人(日本人の男性の平均体重)が1年間投与した場合は月におよそ300万円、1年間では3,800万円もの価格となっていました。
今ではオプジーボの価格もだいぶ下がってきましたが、高額医療費制度のおかげでどんなに薬の値段が高くても患者の支払う料金には限度があります。
どんなに高額の薬であっても、患者負担には限度があるので、医者も患者も少しでも治療に役立つならということでそういった薬を惜しまず使いますが、結果として全体の医療費は膨れ上がり、国家の財政を圧迫します。
良い治療を行うために効果の高い薬を使うことは決して悪いことではありませんが、医療費は無限にあるわけではなく、多くの国民の保険料や税金によって賄われていることを忘れてはならないと思います。
日本の医療を支える医療従事者の働きぶりは素晴らしいものがありますが、医療を維持するための資金を生み出すのは産業であり、産業なくして医療は成り立ちません。
現在、偏差値の高い学部の中でも、医学部は将来安定した収入が約束されているということで人気が高いですが、優秀な人材が医療職ばかりになってしまうと、日本の産業が発展せず、医療を支える経済も成り立たなくなってしまいます。
これまでは日本の経済が右肩上がりだったために、医療や保険制度が問題なく維持できてきましたが、これから日本が少子高齢化を迎え、かつて世界に名を馳せた多くの日本企業も凋落していく中、医療界も大きな転換をせまられる時期が近付いていると思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。